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インターネットの規制をめぐる考察(9)

Internet Lawの3時間の期末試験が終わった。これにて秋学期のすべてのタスクが終了。MBAも4分の3が終わってしまった。年明けから帰国までは本当にあっという間だろう。

この試験までに完結させようと思ってたが、結局まだだらだら続いているこのシリーズ。そろそろ締めていこう。

ネットワークの中立性に反対する代表的な論客であるYoo教授は、このシリーズの(6)の最後で紹介したとおり、ネットワークの中立性を規制化する流れに対して、ユーザのニーズがますます多様化し、かつネットワーク関連の技術革新が次々に起こりつつある環境において、ネットワークの中立性の追求が社会全体のために本当にいいことなのかまだ明らかになっていない以上、少なくともそれが明らかになるまでは、事前規制によって網をかけるのではなく事後的にケースバイケースで対応しよう、と繰り返し主張してる。ネットワークの中立性にも問題があり、逆にネットワークの多様性にも利点があり、(自分としてはネットワークの多様性の価値を信じるが)総合評価は今の段階では明らかになっていない、という論法だ。

ただ、問題をややこしくしているのは、この「総合評価」における評価軸がそもそも立場によって一致していないことだ。多様性論者が主として経済的な価値の側面から議論を展開するのに対して、中立性論者はそれに加えて非経済的な価値を議論の俎上に載せる。すなわち、人間の創造性、言論の多様性、文化の発展、といった価値だ(レッシグならここに民主主義の確保だって加えるだろう)。さらに、中立性論者の一部にはともすると古き良き時代のインターネットへのある種のノスタルジーがあるようにも感じられる。

ここではそれらの非経済的な価値観をひとまず横においておいて、経済的な観点から両者の対立軸を明らかにしてみようと思う。主たる対立軸は、「垂直統合の効果」「価格差別の妥当性とインフラ投資のインセンティブ」だろう。一応Yoo教授のクラスを受講した立場で、ネットワークの多様性論者の理屈に少し軸足をおいてみる。

1. 垂直統合の効果
ネットワークの中立性の提唱者たちは概ね、アクセスネットワーク提供事業者によるアプリケーションやコンテンツ市場への関与を制限ないし禁止する方向で議論を進める。そのロジックは、ネットワーク事業者(特にラストマイルを提供するアクセスネットワーク提供事業者)が自らの市場で有する支配力をもってアプリケーションやコンテンツ市場をコントロールし、当該市場での競争環境を劣化させる可能性が高い、というものだ。具体的には特定のアプリケーションやコンテンツへのアクセスをブロックしたりアクセスのための帯域を制限するといった行為が念頭に置かれている。代表的なケースとしては、地域電話会社であるMadison River社が自らの電話サービスと競合するVoIPサービスをDSLアクセスから遮断したことが問題とされ、FCCから制裁金の支払いを命じられた。

これに対して反トラスト法にも明るいYoo教授は、垂直統合自体はそれほど懸念するものではなく、むしろその利点がもっと評価されるべきだと主張する(もっともYoo教授もMadison River社のようなあからさまな差別行為を支持しているわけではない)。

その前段として、そもそもアクセスネットワーク事業者にアプリケーション・コンテンツ市場を支配するインセンティブ自体がない、と論じる。すなわち、シカゴ学派の"one-monopoly-rent theorem(単一独占利潤定理)"が説明するとおり、バリューチェーンのある部分を構成する市場において独占の立場にある者にとっては、独占からの利潤を得られるのは結局自らが独占の地位にある市場だけだから、垂直統合によって下流市場に進出しなくとも、自らの市場で価格を釣り上げれば利潤の最大化は達成できる、という理屈だ。つまり、アクセスネットワーク提供事業者が本当にアクセス市場で独占の立場にあるなら、わざわざアプリケーションやコンテンツの市場に進出しなくても、その市場のプレーヤーにアクセス回線を高く売りつければ同じだけ儲かるわけだから、そもそもアプリケーションやコンテンツ市場に出ていくインセンティブはないでしょ、ということだ。

さらに、そもそもアクセスネットワーク提供事業者は今や独占の地位にない、とも論じる。今やDSL提供事業者とケーブル事業者はブロードバンドアクセスで競合している。さらに無線によるブロードバンド回線が提供されつつあるなかで、アクセス回線提供事業者を独占事業者と見なすこと自体がおかしい、と(市場の線引きをどう行うかといった細かい議論がさらに続くがそれは割愛)。また、進出する先の市場(アプリケーション・コンテンツ市場)に参入障壁がないため、(インセンティブがないにも関わらず)進出して進出先の市場でビジネスを成功させれば、結局その事実自体が新規参入者を呼び込んで競争環境が作られることになる、とも主張する。実際、アクセスネットワーク事業者は必ずしも合理的ではなく、単一独占利潤定理に反してアプリケーション・コンテンツ市場に進出する可能性は否定できないから、このロジックも非常に重要だろう。

一方で、垂直統合のメリットとして、効率性の達成が挙げられる。"double marginalization(二重限界性)"の解消や、取引コストの削減などがその代表的な例だ。さらに、垂直統合によりアプリケーション・コンテンツとネットワークが高次元で統合されたサービスが提供されることも考慮に入れるべきだとする。これは、ユーザのニーズが多様化する環境においては特に意味を持つポイントだ。

2. 価格差別の妥当性とインフラ投資のインセンティブ
アメリカではインターネットのインフラ整備が他の先進国に比較して遅れ気味であることが大きな問題としてしばしば取り上げられる。Daiquiriさんからは、ハーバード・ロースクールののBerkman Centerによる"Next Generation Connectivity: A review of broadband Internet transitions and policy from around the world"と題された報告書(現段階ではドラフト)の存在を教えていただいた。各国のブロードバンドの普及状況と政策を俯瞰するためのこの報告書においても、やはりアメリカのブロードバンド普及状況は「middle-of-the-pack(凡庸)」だと結論づけられている。
http://www.fcc.gov/stage/pdf/Berkman_Center_Broadband_Study_13Oct09.pdf

ネットワークの多様性の推進論者は、この立ち遅れたインフラ整備のためのインセンティブをネットワーク提供事業者に与える方策としても、自らの提案が優れていると主張する。最も効果が高いのは、ネットワーク提供事業者の顧客への課金に柔軟性を与えることである。具体的には、エンドユーザーの支払額に応じた帯域の区別(コンシューマー・ティアリング)、アプリケーション・コンテンツ事業者に対する従量課金、そしてアクセス・コンテンツ事業者からの支払額に応じた優先的取り扱い(アクセス・ティアリング)が挙げられる。

このアクセス・ティアリングは、ネットワーク提供者のインフラ投資インセンティブを特に高めるとされる一方、ネットワークの中立性の推進者からは最も標的にされている(中立性論を最も熱心にサポートする企業がグーグルであることを考えれば当然だ)。

これに対して、Yoo教授はさらに、"two-sided market(市場の二面性)"の理論からもアクセス・ティアリングが正当化されると主張する。この理論は、ネットワークへの参加者が単一のクラスではなく、複数のクラスからなる場合(例:クレジットカードにおける一般顧客と商店、検索サイトにおける一般ユーザと広告主)のネットワーク効果を説明する。すなわち、ネットワーク市場に二面性があり、ネットワーク参加者が複数のクラスから成る場合は、ある参加者にとってのネットワークの価値は同一クラスの参加者の数に依存するのではなく、異なるクラスの参加者の数に依存する、というものだ。確かに、クレジットカード保有者にとっては他のクレジットカード保有者の数は(少なくとも直接的には)問題にならず、カードが利用できる商店の数こそがネットワークの価値を決定する(逆も然り)。また、検索サイトにおいては、広告主は他の広告主の数よりも、その検索サイトで検索するユーザの総数こそが検索サイトの価値を決定する要因になるだろう。

ここからYoo教授は、アプリケーション・コンテンツ事業者にとってのネットワークの価値がエンドユーザの数にあるならば、エンドユーザのネットワーク利用料金を実質的に負担することも自らの利益に適う行為だろう、と論を進める。つまり、ネットワーク提供事業者が相対的にエンドユーザへの課金を減らし(理論的にはゼロにすることもありうる)、代わりにアプリケーション・コンテンツ提供事業者への課金を増やすことで実質的にエンドユーザにかかわるコストを負担することも、結果としてアプリケーション・コンテンツ提供事業者の合理的な選択になりうる、と。実際、インターネット関連のサービスが広告収入を見込むことで無料化されつつある現状は、このYoo教授の考え方をサポートするものだとも考えられる。

以上のとおり、価格差別を広く認めることがネットワーク事業者のインフラ整備のインセンティブを喚起するというのがネットワークの多様性論者の理屈だ。

一方、ネットワークの中立性論者は、このインフラ投資インセンティブを十分に喚起できないという点がその弱点になっている。彼らは、"unlimited bandwidth(無限の帯域)"がそのうちに実現するという楽観論を提示したり(レッシグなど)、政府による何らかの関与を積極的に認めることでインフラが整備されるというシナリオを描く。ただし、現在の爆発的な需要の伸びに果たして効果的に対応できるのかについての疑問が残る。もっとも、例えば欧州のように、公的資金を広く活用することでインフラの整備を図るという手段もあるが、自由競争を尊ぶアメリカにおいては公的資金に頼ったインフラ整備を社会的に合意することは容易ではないだろう。

うーん、今日の試験でもこれだけ書けたらよかったけど・・・・。JDの奴らはスラスラ書いてたな・・・。

ちなみに、今回の議論は、Yoo教授が最近出した著書にも詳しい。

Networks in Telecommunications: Economics and LawNetworks in Telecommunications: Economics and Law
(2009/06/08)
Daniel F. SpulberChristopher S. Yoo

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(続く)
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2009/12/21(月) | インターネットの規制をめぐる考察 | トラックバック(0) | コメント(2)

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Rion

『供給』

>現在の爆発的な需要の伸びに果たして効果的に対応できるのかについての疑問が残る。

中立性が議論されているアメリカが最もネットワーク帯域の供給が追いついていない国です。ネットワークは政府が供給するか、競争的になるように規制すればすべて解決のように思います。

2009/12/22(火) 00:07:25 | URL | [ 編集]

珈琲男

『具体的なやり方ですね』

>ネットワークは政府が供給するか、競争的になるように規制すればすべて解決のように思います。

理屈のうえではそうかも知れませんが、少なくとも前者を全面的に採用するのはアメリカではないように思います。これまで競争原理を取り入れることを是としてきた通信規制の歴史の結果が今の状態ですから、それを今から否定して政府が実質的なネットワーク提供者になるのはちょっとないかな、と。

後者は多くの論者が主張してますね。問題は、当然ながら規制の仕方だと思います。この規制とはアクセス規制でしょうか。確かに日本でブロードバンドを提供するISPの競争環境が実現したのもアンバンドル規制を徹底したことが大きな要因ですから、理屈としてはありだと思うのですが、実際問題としてはアメリカでは1996年通信法によるアンバンドル規制は機能しないで結局大幅に緩和されてしまいました。失敗の原因を特定してその手当をする方策がなければ、またしても機能しないままになってしまうでしょうね。

2009/12/22(火) 01:10:19 | URL | [ 編集]

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